東京都立川市の戸建住宅の新築プロジェクトです。

通常、不動産広告では、周辺の環境に関する記載が希薄です。このプロジェクトは、周辺環境を調査によって読み込み、住環境としてのポテンシャルを発掘することができました。

不動産売買の広告ではしばしば「不動産販売図面」と呼ばれるA4用紙1枚の物件資料が使われます。販売図面ではほとんどの場合周辺の環境に関する情報がなく、この売地の販売図面では、敷地と接道部分と所有者区分だけが表現されていました。

この販売図面の表現の場合、周囲の状況と情報が記載されていないことが多く、住宅が立ち並んでいるようにも考えられてしまいます。

しかし実際には、販売図面の印象とは違い、物件の南側には生産緑地に指定された、広大な畑が広がっていました。

生産緑地とは生産緑地法で定められたもので、市街化区域内に存在する宅地化が制限された土地のことです。

生産緑地に建築物が建つ可能性は極めて低く、隣地からの採光等の影響が少なくなる好条件の敷地でした。

建築家はこの敷地のポテンシャルを最大限生かして設計を行い、完成した住宅は空地に向かって開けた、明るく心地よい、開放感のある家になりました。

以下、建築家のテキストです。

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【背景】
東京都立川市に建つ御夫婦と3人のお子さんのための住宅。建ぺい率40%の敷地で、残り60%の敷地を活かした計画とすること、また四方に抜けのある敷地条件を活かし、精神的な広がりを生み出すことを目指した。

【敷地全体を活かす配置計画】
配置計画では南北の屋外空間との繋がりをベースにしつつも、周辺環境が変化したときのことを考え、建物を3つのボリュームに分割し、南北にずらして配置した。こうすることで四方に特徴の異なる屋外空間を確保すると共に、ほぼ全ての部屋で風と光の抜けを確保することが可能となった。

【日々の生活と変化を受け止める、軸を持った平面構成】
両端のボリュームを繋ぎ合わせる役目をする中心のボリュームは、一階に土間、二階にダイニングを設け、各々の生活を受け止める厚さのある余白とすることで、廊下のような通路がなく、敷地全体を居場所とすることができる効率的な平面構成とした。またこの住宅の一番の特徴であり、敷地の中心に配置された一階の土間は、子供達が南北の庭を走り抜ける通り土間として、またある時は自転車やゴルフが趣味である旦那さんのガレージ等、一日の流れや長い年月の中で使われ方が変化すると共に、夫婦の寝室(ハナレ)と各個室の心的距離を作り出す装置としても機能している。

【外々、外内、内々、連鎖的な関係が生む厚みのある日常】
決して広くはないこの住宅で、内外や諸室が完全に独立するわけではなく、隣接する空間のためにも存在し、お互いを活かし合う関係性を作りたいと考えた。そのためなるべく身の回りと遠くが同時に視界に入り、様々な種類の異なる情報が連鎖していくよう境界の操作や造作物の製作を行った。そのようにしてできた敷地全体、もしくはその先までも空間として活かす広がりのある住宅は、周辺環境を取り込むことで身体感覚を共した体験を各々の中に形作る、厚みのある日常を生み出す建築となったのではないだろうか。

  • 住所:東京都立川市
  • 構造規模:木造軸組工法 地上2階建て
  • 設計・監理:シグマ建設(株) + 小野 晃次郎
  • 不動産コンサルティング:創造系不動産 川原聡史